東京大学の渡辺努教授(経済学者)が提唱する理論の一つに、日本においてマイナス金利がふさわしいとする考え方があります。これは、インフレ率・自然利子率・経済成長の関係を踏まえた理論的な主張であり、特に日本の長期停滞(デフレ圧力)の解決策として議論されています。
1. 渡辺理論の背景
① 日本経済の長期停滞
- 1990年代のバブル崩壊以降、日本は低成長・低インフレが続いている。
- 「自然利子率(経済の潜在成長率に見合った金利)」が長期的に低下しているため、通常の金融政策では十分な刺激が得られない。
② 金融政策の限界
- 日銀はゼロ金利政策や量的緩和を続けてきたが、期待インフレ率を十分に押し上げることができていない。
- 従来の金融政策では、金利を下げてもゼロ%以下にはできず(ゼロ金利の下限問題)、実質金利を十分に引き下げられない。
2. 渡辺理論のポイント
① マイナス金利の必要性
- 自然利子率がマイナスになっている場合、実質金利をマイナスにする必要がある。
- そのため、政策金利をマイナスに設定し、預金や債券の金利も低下させることで、企業や家計が「現金を持つより投資や消費を増やす」ように誘導する。
② インフレ期待の喚起
- マイナス金利を導入することで、貨幣の保有コストを増やし、資金を市場に流す。
- 市場に資金が流れれば、投資・消費が増え、インフレ期待が高まる。
③ 日本の状況に適している理由
- 日本では高齢化が進み、貯蓄超過の傾向が強い。
- 企業も内部留保を溜め込み、投資が低調。
- マイナス金利を適用すれば、企業や家計の貯蓄を消費・投資に向かわせやすい。
3. 自然利子率と均衡金利との関係
- 自然利子率:経済の潜在的な成長に見合った「適正な金利水準」
- 均衡金利:需要と供給が一致する実際の市場金利
🔹 渡辺理論では、「自然利子率がマイナスなのに、金利をゼロ以上に維持すると経済が低迷する」と主張
🔹 そのため、マイナス金利を維持することで均衡金利を自然利子率に近づけ、経済を活性化させるべき
4. 渡辺理論の評価と批判
✅ 賛成派の意見
- デフレ脱却の手段として有効
- 高齢化社会での貯蓄過多の解決策
- 投資と消費の促進に効果的
❌ 反対派の意見
- 銀行の収益悪化(貸出利ざや縮小)
- 現金を持つインセンティブが増える(タンス預金の増加)
- マイナス金利が長期化すると金融システムに悪影響
5. 結論
- 渡辺理論は、日本の低成長・デフレ環境において、実質金利を十分に引き下げるためにマイナス金利が有効であると主張している。
- しかし、金融機関の収益悪化など副作用も大きいため、慎重な運用が求められる。
👉 「日本の長期停滞を脱却するためには、マイナス金利を適用し、実質金利を自然利子率に近づけるべき」というのが渡辺理論の核となる考え方。