[東京 29日 ロイター] – 東芝の再建をめぐっては、グローバルな投資ファンドによる高額の買収提案が期待されたが、紆余曲折を経て国内勢が中心となり、抑制された買収価格で落ち着いた。買収が実現すれば、アクティビスト株主との長い戦いに終止符を打つことができる。一方、今後、新たな成長戦略のもとで業績の悪化を反転させられるかは未知数で、事業の切り売りなど解体の可能性は消えていない。
JIP陣営は1株4620円、総額約2兆円で株式公開買い付け(TOB)することになる。事情に詳しい複数の関係者によると、主要な海外アクティビストファンドの大半はTOBに応募する見通しという。筆頭株主のエッフィシモ・キャピタル・マネジメントなど、株価が低迷した2017年に行われた総額約6000億円の第三者割当増資に参加した一部の株主は、巨額の利益を上げるとみられる。
主要株主の多くは、入札が始まる以前にロイターに対し、最低でも1株6000円の価値があると語っていた。しかし、一部の関係者によると、アクティビストファンドの多くは長引く混乱にうんざりしており、「驚くほど低い価格」の提案でも撤退したがっているという。
ただ、他の株主は、こうした利益が見込めない可能性がある。JIPによるTOB価格は、会計スキャンダル前の14年12月から15%低く、22年6月の最高値から22%安い水準にある。
東芝が22年4月に買収を含む提案の募集を始めてからほぼ1年経過した現在、「包括的な提案」をしたのはJIPだけだったという。
GCIアセットマネジメントの池田隆政シニア・ポートフォリオ・マネージャーは、「今まで買い手との折り合いつかない状況が長く続いていたが、妥協点が見つかり、東芝再建への道筋がより明確になった」と述べている。
米プライベートエクイティのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)を含む一部の世界的な投資ファンドは、海外の独占禁止法に関するハードルや機密技術に対する政府の審査への懸念、資本市場の動向などを理由に早期に手を引いた。
JIPは当初、官民ファンドである産業革新投資機構(JIC)と連携していたが、島田太郎最高経営責任者(CEO)をはじめとする経営陣を続投させるというJIPの意向に対し、業界再編のための出資という理由付けが必要なJICが反発し、分裂した。
JIP連合の出資者には東芝の長年の取引先が多く含まれる。ある出資者の一社は「東芝はわれわれにとって重要な企業なので、参加を決めた」と語る。関係者によると、東芝の経営陣のほか経済産業省も尽力した。
LightStream Research のアナリスト、加藤ミオ氏は、紆余曲折を繰り返す中で決着までに長い時間を要し、東芝は「理想的なバリュエーションの機会を逃した」と指摘する。また、株主の多くは、東芝の抱える複雑性を見誤っていたと語った。
JIPは22年10月に優先交渉権を得たが、金融機関などとの交渉は長引いた。「経営陣がとどまり、現在の戦略を追求する場合、JIPが東芝をどのように改善できるのか分からない」と、ある金融機関関係者は昨年末に語っている。金融機関は、巨額の貸し付けを回収するための裏付けを必要としていた。
関係者によると、JIPは最終的に、銀行から1.2兆円のシニアローンを得るための条件として、収益が悪化した場合は業績不振の事業を売却することに同意した。今後、東芝の再建が順調に進まなければ、事業売却などの圧力が増していくことになる。